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鹿児島家庭裁判所 昭和47年(少イ)2号 判決 1972年11月06日

被告人 瀬戸口フサ子(昭九・四・三生)

主文

被告人を懲役四月及び罰金二万円に処する。但し、この裁判確定の日から二年間、右懲役刑の執行を猶予する。被告人が右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、国分市○○××××番地の×において飲食店「○○」を経営しているものであるところ、

第一  昭和四六年一二月初め頃よりH・K(昭和三一年二月一〇日生)を同店従業婦として雇入れ同店附近の自宅に住込ませていたものであるが、

一  昭和四六年一二月中旬頃の午後一一時三〇分頃右「○○」において同女から外出許可料名義で現金一万円を受取り、同女をして同夜同市○○のモーテル「○」において○口○俊を相手に売淫させ、

二  昭和四七年三月二〇日頃の午前零時頃右「○○」において同女から外出許可料名義で現金五、〇〇〇円を受取り、同女をして同夜同市○○のモーテル「○」において○地○則を相手に売淫させ、

もつてそれぞれ児童に淫行をさせ、

第二  鹿児島県公安委員会の許可を受けないで、昭和四六年一二月頃から昭和四七年四月頃までの間右「○○」の奥三畳間を客席となし、朝倉正平ほか不特定の客多数に対し従業婦高野夏江らをして接待させ酒肴を提供して飲食遊興させ、もつて風俗営業を営んだ

ものである。

(証拠の標目)

判示冒頭の事実及び第一の一及び二の各事実につき、

一、新富町長作成の嘱託回答書

一、H・Kの検察官に対する供述調書

一、○口○俊の検察官に対する供述調書

一、○地○則の司法警察員に対する供述調書

一、高野夏江の検察官に対する供述調書

一、朝倉正平の司法警察員に対する昭和四七年八月二九日付供述調書

一、被告人の検察官に対する供述調書全三通

判示第二の事実につき、

一、朝倉正平の司法警察員に対する昭和四七年八月二二日付供述調書

一、H・Kの検察官に対する供述調書

一、高野夏江の検察官に対する供述調書

一、被告人の司法警察員に対する昭和四七年八月二五日付供述調書

一、被告人の検察官に対する同年九月五日付供述調書

(法令の適用)

判示第一の一及び二の各事実

児童福祉法三四条一項六号、六〇条一項

判示第二の事実

風俗営業等取締法二条一項、七条一項

刑種の選択 判示第一の一及び二の各罪につき懲役刑を、判示第二の罪につき罰金刑を選択

併合罪の処理

判示各罪は刑法四五条前段の併合罪ゆえ、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑につき同法四八条一項によりこれを右の懲役刑と併科

懲役刑の執行猶予 刑法二五条一項一号

労役場留置 刑法一八条

(併合審判の理由)

本件児童福祉法違反被告事件と風俗営業等取締法違反被告事件は、当初当裁判所と鹿児島簡易裁判所に各別に係属していたのであるが、これを刑事訴訟法五条一項により併合審判することとしたのは、以下の理由による。

一  両事件は、刑法四五条前段の併合罪の関係に立ち、被告人としては、一括して審判される方が利益であり、現に被告人の弁護人から併合審判されたい旨の申出があつた。

二  両事件の証拠は、立証趣旨こそ異れ、大部分共通しており、併合審判により訴訟が著るしく遅延するおそれはなかつた。

三  家庭裁判所は、簡易裁判所の裁判に対する上訴事件を取り扱わず、簡易裁判所及びその職員に対する司法行政上の監督権も有しないので、簡易裁判所に対する関係で、刑事訴訟法五条にいわゆる上級の裁判所といえるかどうかについては若干疑義がないではない。しかし、家庭裁判所は、通常裁判所の系列に属する裁判所で審級上も司法行政上も最高裁判所及び高等裁判所に次いで地方裁判所と並んで第三階層に位し、しかも同列の地方裁判所が審級上も司法行政上も簡易裁判所に対し上級裁判所たる地位を有する関係にあるのであるから、通常は取扱事件にかかわりあいがないためと同列に地方裁判所があるために実際には簡易裁判所と上級下級の関係に立たないのであるけれども、その場合も抽象的論理的には簡易裁判所と上級下級の関係に立つているとみることは可能ではないかと思われ、現実に家庭裁判所の取扱事件と簡易裁判所の取扱事件とがかかわりあいを持つて来たような場合には正にその関係が現実化するとみてもよいのではないかと思われる。関連事件の管轄の併合や審判の併合は、被告人の利益のためと訴訟経済のために認められたものと考えられるが、その必要性は、家庭裁判所の事件と簡易裁判所の事件が関連する場合のうち少くとも一人が両事件を犯した場合については、地方裁判所の事件と簡易裁判所の事件が関連する場合とひとしく認められる。そして裁判所の構成のうえからみても、審級の利益の点でも、家庭裁判所簡易裁判所間で関連事件の管轄の併合や審判の併合を認めても、当事者の利益を害するおそれはないものと解せられる。

四  少年法三七条二項は、同条一項に掲げる罪とその他の罪がいわゆる科刑上の一罪の関係にある場合は少年法三七条一項に掲げる罪の刑で処断すべきときに限り全部を家庭裁判所に起訴しなければならない旨規定するが、その反対解釈として出て来るのは、右の場合にその他の罪の刑で処断すべきときには全部を通常の刑事裁判所に起訴することになるということだけであつて、少年法三七条二項は、右の両罪が併合罪の関係にある場合については全く触れていないとみるのが素直な解釈であり、右法条があるからといつて、右の両罪が併合罪の関係にある場合には常に家庭裁判所と通常の刑事裁判所に別々に起訴すべきであるとか審判の併合が許されないとか解すべきものではなかろうと思われる。

五  裁判所法上も、関連事件の併合管轄や併合審判の認められる場合は、同法三一条の三の二項により、家庭裁判所は、本来裁判権を有しない風俗営業等取締法違反被告事件についても裁判権を有することとなるものと解せられる。また、家庭裁判所は成人の刑事事件及びこれと科刑上一罪の関係ある事件につき裁判権を有し、科刑権の制限もないのであるから、この権限を成人の刑事事件と併合罪の関係にある事件にまで拡張しても、家庭裁判所の基本的性格に反する結果になるとは解せられない。

(裁判官 露木靖郎)

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